エピローグ#11  It’s a スモール カントリー

イタリアのローマ市内にある
世界最小の主権国家「ヴァチカン市国」。

 

ヴァチカン市国

ヴァチカンはローマ教皇庁によって統治される
カトリック教会と東方典礼カトリック教会の中心地、
いわゆる「総本山」。統治者はローマ教皇である。
1929年にイタリアとの間に3つのラテラノ条約が締結され、
条約は教皇庁が教皇領の権利を放棄するかわりに、
ヴァチカンを独立国家とし、
カトリック教会の特別な地位を保証するものだった。

午前8時前にメトロに乗った。
ローマの中心街から5駅、たったの15分で
その小さな国に到着した。
というわけで、
58ヶ国目「ヴァチカン市国」。

この国の面積は約0.44平方kmで、わかりやすい例を挙げれば
東京ディズニーランド よりも若干小さい感じ。
人口は約1000人で、彼らはヴァチカンの城壁内で生活している。
市民のほとんどは枢機卿、司祭、修道女などの聖職者。
また、聖職者以外の一般職員は3000人にものぼるが、
そのほとんどは市国外に居住し、そこから通勤しているそうだ。
「行ってきます」と言ってメトロやバスに乗り、
毎日国境をまたいで出勤するのだから、なんだか変な感じ…。

 

サン・ピエトロ大聖堂

オッタヴィアーノ駅から歩くこと10分、
円形の城壁が姿を現す
たしか『ミッションインポッシブル3』で使われて場所だ。
国境らしき施設はなく、入口をそのまま入ると
巨大な円柱通りがつづいていた。
人口1000人ながら、
年間2000万人以上の信者や観光客が訪れるので
この小さな国はそれこそディズニーランドのように人で溢れかえる。
行列ができる前に「サン・ピエトロ大聖堂」に入っておきたい。

大聖堂に入るためには空港のようなボディチェックがある。
そこを抜けると大聖堂の廊下には衛兵がキリっと立っていて
まるでハリーポッターの1シーンのような光景だった。
そして、いよいよ大聖堂の中へ。
世界10億人のカトリック信者にとって憧れの場所である。

頭の先から高い天井に向かってふっと魂が抜ける感じ。
この神聖さ、厳かさは半端じゃない!
旅の終わり、
ゴールテープを切ったような気持ちにさせられる祝福の場所だ。

この大聖堂は、イタリア・バロック様式の代表的な建築物で、
サン・ピエトロとはイタリア語で”聖ペトロ”の意味。
1546年にミケランジェロが建築の指揮をとり、
120年の歳月を擁し、
完成したのはミケランジェロが没して62年後である。
バシリカに入ってすぐ右側に
ミケランジェロのピエタ像がひっそりと飾られていた。
ミケランジェロの名声が確立されたといえる作品である。

日本の寺院や仏閣が好きで、海外でも仏教遺跡に心躍らせてきたのだが、
イスラエルのエルサレムを訪れて以来、キリスト教の美しさを知った。
仏教が持つ厳格さとは違った、寛容で深い信仰に魅力を感じる。
キリスト最期の場所であるゴルゴダの丘(エルサレム)に行ったのは
たしか昨年の9月。
あれから旅はつづき、こんな場所までやってきた。

 

賛美歌、風の音

ふいに賛美歌が響いた。

幻聴のように静かに、そして深い歌声。
異次元の世界に吸い込まれていくようなやさしさに包まれながら
しばし、その場に立ち尽くす。
その心地良さは春のうたたねによく似ていた。

大聖堂から出ると、眩しさに目を細めた。
あぁ、現実に戻ってきた…そんな感じ。
外は日差しがきつく、とても暑かった。
大聖堂へとのびる人の列は城壁に沿って100m以上になっている。
まだまだ時間とともに伸びていくのだろう。

つづいて大聖堂のクーポラ(丸屋根)に登ることにした。
クーポラはエレベーターと階段を使い、入場料は7ユーロ(約900円)。
中間まではエレベーターで、その後330段の階段を登っていく。
階段は人ひとりがギリギリ通れるくらいの狭さで、
ねじ巻きのようにくるくるとひた進む。
肩で息をしはじめたころ、頂上にたどり着いた。

人垣を掻き分けて正面の絶景ポイントを確保した。
円形のサン・ピエトロ広場が見渡せ、
その先にはローマの街並みが広がっている。

広場はドーリア式円柱で装飾された回廊が取り囲むように構成されていて、
回廊の上には、ベルニーニの弟子らが作成した
140体の聖人の像が飾られている。
風が気持ちいい。
行列はさっきよりもさらに長くなっていた。

 

最後の審判

さて、ヴァチカン市国は国自体が文化遺産の宝庫である。
サン・ピエトロ大聖堂の他にも、
ヴァチカン美術館やシスティーナ礼拝堂など、
ボッティチェリ、ベルニーニ、ミケランジェロといった
美術史上の巨匠たちが存分に腕をふるった作品で満ち溢れている。

 

一度国外に出て、城壁に沿って歩いていくと
ヴァチカン美術館の入口がある。
所蔵品の中心となっているのは、
ユリウス2世の彫刻コレクションである。
キリスト教美術以外にも、
古代ギリシャや古代エジプトの膨大なコレクションを誇っていた。

旅の終わりはなぜか美術館や博物館に向かう。
これまでの旅が集約されている場所だからだろうか?
ヴァチカン美術館の入場料は14ユーロ(約2000円)。
所蔵品が多すぎて、
全部見ようと思うと1週間はかかると言われているので、
入口からすぐに「システィーナ礼拝堂」に向かって足を進めた。

それにしても広い!
案内板を見ながら奥へ奥へと進むも
なかなか目的地にたどり着かない。
長い廊下を抜け、何度も階段を上り下りし
足が棒のようになってきた。
たぶん、この美術館内だけで
4kmは歩いたんじゃないだろうか?

ひょっとして通り過ぎた?

そんな不安にかられた頃、ようやくシスティーナ礼拝堂についた。
ここで有名なのはミケランジェロの『最後の審判』や『創世記』である。
たったひとりで10年間、天井に向かって描き続けた大作。
部屋の中は人でごった返し、みな天を仰いでいた。
大きな梯子に登って、これを描き続けたかと思うとため息がでる。
ミケランジェロは何を思いながら、筆を走らせていたのだろう?

想像は創造へとカタチを変える。
思う力があれば、こんな大作も描けるし、
どこへだって旅もできる。

果てしない――。

人の持つ力の偉大さと無限さを知った。
世界で一番小さな国で、
とても大きなものを見つけた気がする。

 

旅のカケラ/slideshow

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