7人のサムライ(後編)

 

6人の欧米サムライとの距離は、
みるみる引き離されていく…。

 

占拠

彼らの背中が遠く霞んでいくにつれ、
「もうここで休もうか」
「ここで待ってれば、バスが来るかも」
と、心が弱音を吐き始めた。

時計を見る、すでに1時間30分歩いていた。
時刻は午後4時。
こんな山の中で取り残されたら…、
そう考えると、足を止めることはできなかった。
ましてや、すぐ近くにはマオイストがいるのだから。

ようやく彼らが占拠する橋が見えてきた。
タイヤが燃える黒煙が上がり、
近くには破壊された車両が転がっていた。
マオイストは奇声を上げながら、
軍隊と睨み合いをつづけていた。
彼らと目を合わせないようにして
静かにその横を通り抜け、仲間の後を追った。

 

強くなりたい

道は大きく弧を描いていて、仲間の姿は見当たらない。
次のカーブが限界だ、そう言って息を切らせながら
1つ、また1つとカーブを越えた。
自由という名の孤独な旅。

共に歩いていた友人たちは
家庭を築き、幸せを探し始めている。
変わっていったり、変わらなかったり、
それでも時間は過ぎていく。
いつしかひとり置いていかれ、
今もこうして、誰かの背中を追いかけている。

待って―。

届かない声、追いつかない時間。
なぜ、こんなにもひとりぼっちなんだろう?
もう歩くのをやめよう。
そしたらどれだけ楽か。
さあ、その荷を降ろして、あの木陰に。

強くなりたい。
そう思って歩いているはずなのに、
心に浮かぶのは逃げの選択肢ばかり。
こんなにもちっぽけで、弱っちい自分…。

いくつのカーブを越えたのだろう。
ふいに名を呼ばれた。
そこには小さな集落があり、
こっち、こっちと6人が手を振っている。
どうやら待っていてくれたらしい。

 

 

きっと誰かにやさしくできる

輪に入り、荷物を投げ出して横になった。
6人の笑い声が心地よかった。
「じゃあ、バスを探してくるから」と、
2人のサムライが席を立った。
あ、一緒に…。
「いいよ、KAZは休んでな」
あ、ありがとう。

今度は村の子どもたちが集まってきた。
息を切らし、死にかけの姿を見て笑っていた。
そして腕をひっぱられ、どこかに連れていこうとする。
向かった先は井戸だった。
冷たい水を頭からかけてもらい、少し生き返った。

ありがとう、と両手を合わせると
真似をしてケラケラ笑う。
いつしか数十人の子どもに囲まれ、
日本語を教えて、とノートまで登場した。
名前を聞き、日本語で書いてあげる。
大喜びで、次!次!と順番争いが激しさを増した。

「KAZは人気ものだね」
欧米人が笑う。
そりゃ、顔がネパール人だからね。

強いってなんだろう?
『はじめの一歩』で、一歩が口にしたセリフ。
それに対して先輩の高村はこう言った。
「そりゃ、強くなったらわかるさ」。
こんなにも弱い自分。
でも、助けてくれる人がたくさんいる。
何でもひとりでできる“強さ”よりも、
誰かに支えてもらえる“弱さ”もいいかも。
そして、自分の弱さを知っている人間は、
きっと誰かにやさしくできる。
本当に強い人は、弱さを認められる人かもね。

「バス、あったぞ」
2人が戻ってきた。

「行けるか?」
「もちろん!」

再び足並みを揃えて歩き始めた7人。
遅れまいと必死になっていると、
そっと歩く速度を緩めてくれた。

彼らは本当に“強い人”だ。

 

旅のカケラ/slideshow

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です