ライオンの鬣(たてがみ)

「ノー、フル!」
うな垂れながら、ソファに腰をおろした。
これで3軒目だ…。

ここ「ダハブ」はハイシーズンなのか、
どこも宿にベッドの空きがない。

 

カズマ?

これは昨夜の出来事。
ダハブに着いたものの宿探しに苦戦していた。
エジプトに入り、物価は急下降し、
1泊200円、1食100円と、
ヨーロッパ価格のトルコやイスラエルを
旅した後だけに、いやでもテンションが上がるのだが、
満室つづき…。需要と供給、
二次関数のグラフの接点が見つけられない。
受付のソファに座り、次の宿を探すため
ガイドブックに目を落としていた。

すると、表の通りをライオンの鬣が横切った。

実際は襟足しか目に入らなかったのだけど、
確信を持って外に飛び出し、こう叫んだ。

「カズマ?」

ライオンが驚いた顔で振り返った。

「やっと捕まえたよ(笑)」

彼とはじめて出会ったのはパキスタンのフンザ。
見かけはヤンキーで、
普段なら絶対友だちにならないタイプ。
ただ、べらぼうに写真のセンスがよいことと、
そのやわらかい物腰に、いっきに距離が縮まった。

こうやって彼の名を叫んだのはこれで2度目、
以前にもバスの窓から彼の姿を見つけ
数日間一緒に旅をしたことがある。
チトラール(パキスタン)の宿の屋上で
星空を見ながら語り明かした夜は
今も鮮明な記憶として残っている。

「会いたい」
その思いは通じるもので、
彼との再会を望んでいたものの、
どこかで会える自信があった。
だから今日の再会は偶然ではなく、
必然だと思うし、
こんな一瞬を見逃さなかった。

 

スゴイ力が秘められている

運命的な話をもう1つ。
実はイスラエルで、
朝まで語り明かした夜があった。
そのときのテーマの1つに
「今までで一番印象に残っている場所は?」
というお題が出された。

そこで、
「場所じゃないけど、
屋上で語り明かした夜があって、
それが印象的だったなぁ」
と答えた。

そう、彼のこと。

よく誰かの噂をしてると、
その人が偶然通りかかったりする。
やっぱり“ひきよせ”ってあるんだよね。
出来すぎって自分でも思っちゃうけど、
人間にはスゴイ力がきっと秘められていると思う。
彼は印象深かったから、
4ヶ月ぶりだってことを忘れてた。

「もうそんなに経ったかぁ」
同窓会みたいな気分で笑いながら
気がつけば3時間も話し込んでいた。
結局宿は彼に案内された
『ファイティング・カンガルー』という
おかしな名前の宿。

ツインしか空きがなく、
それでも25ポンド(約500円)だったので
改めてエジプトの物価に感謝した。

 

波の音に耳を傾ける

一夜明けて、ダハブの海を見た。
宿から1分でビーチだもの、絶好のロケーションさ。

藍よりも青い海、
“蒼”って漢字を使おうかな?
遠くから見れば蒼くて、
近くで見ればどこまでも透明。
さすがは世界有数のダイビングスポット!

ヤバイよ、ここ☆
空から海につながるグラデーション。
陽の傾きとともに色が加わる。
とりわけ夕陽は言葉を失うね。

目を細めながら、波の音に耳を傾けてれば、
あとはな~~~んにも要らない。
ダイビングはしないけど、
こりゃあ、ダハブに沈没しそうだ…(笑

明日はシュノーケリングをしよう、
シリアで出会った友と。
明後日はモーゼが十戒を授かった聖地へ行く、
イスラエルを旅した友と。
その次はカイロへ旅立とう、
ダハブで再会したカズマと。

その次の次は…

ひとりじゃない。
どこかで、だれかと、つながっている。
この海だって、この風だって、この夕陽だって。
何度だってクロスする二重螺旋。
ヒトの染色体がそうであるように、
運命もまた、
2本の糸でできているのかもね…。

 

旅のカケラ/slideshow

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