エピローグ#04  絵の中の村

 

ヨーロッパの旅は鉄道が主役である。
本当はバス旅が好きなのにバスが見あたらないし、
ガイドブックにも鉄道情報しか書かかれていない。
「世界の車窓から」に憧れはあるけど、
切符を買うのに並び、降りる駅を気にしながらの移動は
意外としんどいものである…。

 

サオルジュ

 

今日はニースから「サオルジュ」という山間の小さな村を訪ねる。
行き方は2通りあり、
1つは海岸線を走って昨日訪れたマントンで乗り換えるルート。
これは本数が多く時間も早いが、登山鉄道の醍醐味が薄れてしまう。
そこで1日に5本ほどしかない鈍行列車を待って
山岳地帯を抜けるルートを選択した。

ノロノロでガタゴトな鈍行列車は味があった。
無人の駅に停まると渓流のせせらぎが聞こえてくる。
遠くでジージーと蝉の声もする。
木々が風に揺れ木漏れ日が降り注ぐ。
初夏の香りを感じながら、日本と似た景色に癒されていた。

どうやらこの列車はイタリアのトリノまで行くらしい。
朝食のパンとチーズをくすねて来たので
ピクニック気分でそいつをかじった。
トンネルをいくつも抜けるとサオルジュの小さな駅に着いた。

 

駅は無人で改札もなにもない。
駅舎を抜けると1本の道路が走っていて
「サオルジュ」と案内標識が立っていた。
山道を登っていく。
標高はどれくらいなのだろう?
遥か眼下に渓流と線路が見える。

 

鷲の巣村

トンネルをくぐると気温がぐっと下がった。
なんだかフランスにいるというより屋久島にいる気分だった。
旅をすればするほど日本の景色を重ねていく、
そんなものなのかもしれない。

1kmほど歩いただろうか、
村のシンボルでもある大きな教会が目に飛び込んできた。
この地方に点在する断崖に建つ“鷲の巣村”、
サオルジュもその1つだった。

フランスを代表する画家は多い。
ゴッホ、マティス、シャガール、セザンヌ。
彼らの絵に登場しそうな素朴で美しい村だ。
村の入口に数台の車が停まっていてそこから先は
人しか通れない細道が迷路のように張り巡らされている。
中世のまま時間が止まった村。

 

風に身を任せて

窓枠やベランダに蔦が絡まり、路地に花が揺れていた。
絵に中に入り込んだか、タイムスリップをしたか、
不思議な時間が流れる場所だ。
懐かしさに似た落ち着きを感じながら靴音を響かせて歩く。

細道には小洒落た店がいくつかあり、
さすがはフランス!と、
拍手を送りたくなるほどこれまた絵になる。
ヨーロッパってスゴイや、センスの良さが際立ってるもの。

リゾートな有名観光地よりも
こんなガイドブックにも載っていない場所の方が
来てよかったと感じる。
わび、さびを知る和心がそうさせるのか。
帰りのホームで
いつまで待っても来る気配のない列車を待ちながら
風に身を任せ、遠くに蝉の声を聞いた。

 

 

旅のカケラ/slideshow

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