アキタビ’10(フィリピン編)#9(fin.) さよならは夢の中へ

イントラムロスで、
リアル鬼ごっこ、はじまる。

昨夜出会った詐欺のおばちゃんたちと
まさかの鉢合わせをしてしまい、
まぁ、走って逃げれば済むことなんだろうけど、
罵声を浴びせられるのも気分が悪いので
うまく逃げ出すチャンスを伺った。
お互いにしばらくはかけひきだ。

 

リアル鬼ごっこ

相変わらずショッピングモールに行こう、と言うので
「まずは観光をさせて」と、
やんわりと断り、少しだけ距離を置いて歩き始めた。
作戦はこう、
ひたすら歩き回って疲れさせる。

1時間以上、歩き続けただろうか。
気温は35度を超えているし、日陰もほとんどない。
それでも汗を拭いながらピタッと後をついてくる。
これはしつこい…。
持久戦になり、こっちも足が痛くなってきた。

喉が渇いたのでコンビニに入ることにした。
ふたりは店の外で待っていると言う。
店内に入り、噴き出た汗を拭った。
そろそろ決着をつけないとたまったものじゃない。
幸い外からは店内の様子がわからないようで、
ガラス越しにふたりの様子を見てみると、
すごい形相でこちらを睨んでいた。

水を3本買い、ふたりにも配った。

「すぐそこにある教会の写真を撮ってくるから
ここで休んでいてよ。5分で戻るからさ」

そう伝えると、素直に頷いてくれた。
やっぱり相当疲弊してるんだろうな。

さぁチャンス到来。
教会を通り過ぎると一目散に走り出した。

イントラムロスは城壁に囲まれているため、
2ヶ所ある門から外に出なければならない。
たぶん、逃げたことに気づき、先回りするはずなので
できるだけは走って門を探した。
かなりスリルのある、リアル鬼ごっこだ。

 

サヨナラ、フィリピン

その夜、ホテルで日本人大学生と知り合いになった。
ひどく困っていたので事情を聞くと、
「詐欺に遭い、お金もパスポートも盗られてしまった」と言う。

詳しく聞いてみると、
ふたり組のおばちゃんとショッピングモールに行き、
そのあと、自宅に招かれ夕食をともにした。
そこからの記憶がなく、気が付くとタクシーの中だったそうだ。
昏睡強盗というやつだ。
財布もパスポートもなくなっていて、
でもなぜかデジカメだけは残っていた。
たしか一緒に撮った写真がある、と思い出し
写真を再生してみたが、
見事にふたりのおばちゃんの写真だけ削除されていて
証拠を隠滅されていた。

「ひょとして、こんな感じのふたり組じゃない?」
彼に特徴を伝えたところ、
そう!と、返事があった。
今日、鬼ごっこをしたあのふたりだった…。

気分転換になればと、彼と食事に出かけた。
もちろん、おごってあげた。
初めてのひとり旅だったらしく、
こんなことで旅が嫌いになって欲しくなかったので
でたらめに夜のスラム街を歩き、
たとえ危険なエリアでも、
こんな風にコミュケーションをとれば大丈夫だよ、
と、旅のコツと面白さを伝えた。

すっかり元気を取り戻したようで、こう話しはじめた。
「実はこの旅に出るとき、見送りに来てくれた
同級生の女の子がいて、
日本に戻ったら告白しようと思うんです!」

そうか、そうか。
それはいい決意だけど、
たいして話したこともないというし、
そそっかしい彼のことだから
空振りに終わらないか心配になった。

深夜、空港へ向かう。
タクシー代だけを残し、
余ったお金と、励ましの手紙を彼の枕元に置き、
ホテルを後にした。

「がんばれよ」

そうつぶやきながら
ひとつの旅が終わった。

 

旅のカケラ/slideshow

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