アキタビ’10(フィリピン編)#3 口笛

昨夜は激しい雷雨をBGMに眠った。

今、フィリピンは雨季。
世界遺産、危機遺産に登録されている
ライステラス(棚田)を見ようと
マニラからバスを乗り継いで「バナウェ」に来た。

本日も晴天なり

バナウェはコルディレラ山脈の中央に位置する山間の町。
先にも述べたようにこの時期は雨が多く
いわゆるオフシーズン。宿も閑散としていた。

午前7時。
カーテンからこぼれる日差しに心が躍った。
勢いよくカーテンを開けると
眩いばかりの朝日が部屋に降り注いだ。
目を細めながら「だよね」とひとり頷く。
とにかく晴れ男なのだ。
屋久島も、梅雨の沖縄も、雨季のバングラデシュだって
どこへ行ったっていつも晴れ。
雨男と一緒に行くとそのパワーに負けてしまうが
ひとりだったら無敵!
さあ、ライステラスを見に行こうか。

目指すは「バタッド・ライステラス」。
バナウェから約16km東にあり、
途中のジャンクションまでは
トライシクル(バイクタクシー)で行き
そこから約3時間の登山となる。
最初はひとりで行こうと思っていたが
説明を聞いているうちに少し不安に。
今回はそんなにサバイバルな旅を求めていないし
大事をとってガイドを付けることにした。

交渉の末、1500ペソ(約3000円)で
運転手ガイドを確保。
思ったよりもずっと安く話はまとまった。

 

目指せ、ライステラス

昨夜の雨でぬかるんだ未舗装の道を
左右に大きく車体を揺らしながら1時間。
ジャンクションに到着。
ドライバーはここで待っているという。
ここから登山になり片道約3時間だとか…。

ガイドの名前は忘れた。
明るく気さくな20歳の青年だ。
屈託なく笑い、そして気がきく。
ぬかるみの登山だったので
彼が先頭を歩き、同じ岩を踏みながら後を追う。

「ケアフル!ウォッチ ア ステップ!」
足元を良く見て!と何度もフォローしてくれる。
急な斜面は彼が手を差し伸べてくれるし、
荷物を持とうか? 少し休むかい?
と、とにかくやさしい。

試合開始30分ですでに滝のような汗と
ゼイゼイと肩で息をする。
彼はというと、涼しい顔で笑ってるし
しかも足元はビーチサンダル!?
なんなんだ、この差は…。
日本でずいぶん身体が錆ついたのか?
なにくそ!サムライ魂を見せてやる。

 

メタモ!

1時間後、中腹にある休憩所に辿り着いた。
彼曰く、30分以上早く着いたらしい。
どうだ、見たか。

コーラを買い、その場にへたり込み汗を拭った。
この一杯が死ぬほど旨い!
「好きなものを飲めばいいよ、おごるから」
と勧めるも、彼は「ノー」と遠慮する。
ここで買うと高いから、と、なんて慎ましいんだ。
心を打たれ、「コブラ」と書いてある
エナジードリンクを勝手に買い彼に手渡した。
遠慮はいらんよw

「メタモ!」
教えてもらったフィリピン語で
「さあ行こう!」の意味。
彼には日本語を教えてあげ、
かわりにフィリピン語を教わった。
ドウイタシマシテ
と、モウチョットがえらく気に入ったようだ。

そして1時間後、言葉を失った。

目の前には
すり鉢状に広がるバタッド・ライステラス。
心地いい風が頬を撫で
音のない風景に心のざわめきを聞いた。

 

 

天国への階段

約2000年前。イフガオ族が神への捧げものとして
造ったといわれるこのライステラス。
「天国への階段」と呼ばれているとおり
天に向かって延びていた。
能登半島(石川県)で見た千枚田や
ウブド(インドネシア)の棚田も見事だったが
ここはひと味違った。
こんな山奥になぜ?
マチュピチュ遺跡を見たときと同じ気持ちになった。

口笛を吹きながら
棚田の畦道を歩く。
ススキが静かに揺れ
立てた指に赤とんぼが停まった。

秋だなぁ。

時間や季節は立ち止まってくれないけど
何度だって繰り返す。
旅は一種のタイムスリップで
忘れかけた風景や気持ちを鮮明に甦らせてくれる。

題名のない口笛が響く。
穏やかな気持ちと興奮が入り混じった
なんだか不思議な時間を過ごした。

口笛を遠く、
永遠に祈るように遠く
響かせるよ
言葉より確かなものにほら、
届きそうな気がしてるんだ
(Mr.Children “口笛”より)

 

旅のカケラ/slideshow

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